「覚えたつもり」をなくそう!

こんにちは!担任助手の姉川です。

夏休みも早いもので終盤に差し掛かったところですね...。

皆さん、今年の夏休みはどのように過ごしましたか?

ぜひ、皆さんの夏休みの思い出を聞かせてください!

残りの期間をさらに有意義にするために、今日は”記憶”に関する面白い実験をご紹介します。

”記憶”に関する実験

皆さんは「幽霊の戦い」という話を聞いたことはありますか?

私は、先日大学の授業で初めて耳にしました。

「幽霊の戦い」とは、イギリスの心理学者バートレットが、欧米の大学生を対象に行った記憶に関する実験の際に用いた、欧米人にはなじみの薄い文化的背景を持ったインディアンの話です。

その実験は、大学生にその話を各自のペースで2回読んでもらい、その後にそれがどのような話であったのかについて出来るだけ詳しく想起してもらうというものでした。

以下に「幽霊の戦い」を日本語に訳した文を載せるので、ぜひ皆さんも試しに一度やってみてください。

幽霊の戦い

「ある晩のこと,エグラクの二人の若者が, アザラシ猟のために,川を下って行った。川を下って行くと,霧が出てきて,静かになった。その時,戦いのときの声を聞いたので,「もしかしたら,これは戦 いの仲間かもしれない」と考えた。彼らは岸の方に逃げて, 一本の丸太のうしろにかくれた。すると, カヌーがやって来て,かいの音が聞こえ,ーそうのカヌーが,自分たちの方に近づいてくるのが見えた。カヌーには,五人の男が乗っていた。そして,

「お前たちは何を考えているのだ。我々はお前たちを一緒につれて行きたいと思う。我々は戦うために,川をさかのぼっているところだ」と言った。

「私は矢をもっていない」と若者の一人が言った。

「矢はカヌーの中にある」と彼らは答えた。

「私は行きたくない。私は殺されるかもしれない。私の行く先が,私の親類の人たちにはわからなくなる。しかし,お前は彼らと一緒に行ってもいいよ」と,彼 はもう一人の若者の方をむいて言った。

そこで,若者の一人は,彼らとともに行き,一人は家に帰った。

そして,戦士たちは,川をさかのぼって,カラマの向う岸の町へ行った。人々は,川岸まで下りて行って,戦いをはじめ,たくさんの人たちが殺された。しか し,間もなく,若者は,戦士の一人が「急いで家に帰ろう。あのインディアンが矢にあたった」と言うのを聞いた。そこで,彼は, 「おう,彼らは幽霊なのだ」と考えた。彼は苦しいとは感じなかった。しかし彼らは,彼が矢にあたったのだと考えた。

そこで,カヌーはエグラクに帰り,若い男は岸にあがって,家に帰り,火をたいた。そして,おどろいてはいけない。私は幽霊と一緒になって,戦いに行ってき たのだ。たくさんの仲間が死に,我々を攻撃した相手も,たくさん死んだ。人々は,私が矢 にあたったと言ったけれども,私は苦しいとは思わなかった」と言った。

彼は,一部始終を話してから,そのあとは,何も言えなくなった。太陽が昇り,彼は倒れた。何か黒いものが,彼の口から出た。彼の顔がゆがんだ。人々は飛び あがって叫んだ。

彼は死んでいた。

幽霊の戦い(Bartlett, 1932/1967(無藤・日笠ら訳 2000)より引用)

皆さんがまとめた内容と本文で、どのような違いがあったでしょうか?

バートレットによると、実験に参加した大学生の一連の想起のプロセスに現れる記憶の誤りに注目して分析を行ったところ、大学生の記憶(想起した内容)について次の3タイプの歪みが認められたそうです。

平板化・単調化聞き慣れない固有名詞親しみのない細かい記述箇所は記憶されない。

精緻化…話の内容について,実際に書いてあったことよりも詳しく再生する。

合理化話を短くしたり,つじつまの合うようにしたり,読み手(聞き手)の文化に適合するように話の内容を作り変える。

バートレットは、この実験を通して、読み手(聞き手)は、けっして話の内容をそのまま自動的に受け入れているのではなく、自分の持っている知識に照らし合わせながら、自分なりの意味を追求する努力をしていること、そして、話の内容を再生する時にもその通りに想起するのではなく、自分のなかで再構成して想起していることを示唆しました。

簡単にまとめると、自分の知識とつながらない新しい情報を、ただ受け取るだけでは、記憶は定着しないということです。

例えば、数学や物理では、なぜその公式が成り立つのか、どういう場面で使うのかを理解せず、ただ式だけを暗記しても、新しい問題や応用問題には対応できません。

英語では、単語帳に載っている英単語をただただ機械的に覚えても、その単語がどんな文脈で使われるのかが分からなければ、いざというときに使えません。

定着させるには?

では、どのようにすれば授業で習うことをしっかり定着させることができるのでしょうか。

バートレットの実験で認められた3タイプの歪みをもとに考えてみましょう。

①→まずは重要なポイントを正確に押さえましょう。数学で言えば、定義・定理などがこれにあたります。これらの基本事項を正確に覚えることから始まります。

②→その情報に自分の言葉具体的なイメージを付け加えていきましょう。ただ公式を覚えるだけでなく、「どうしてこの公式が成り立つんだろう?」「この公式は、どんな図形の問題で使えそうかな?」と具体的に考えてみるのが大事です。

③→頭の中の情報を整理し、全体を”合理的に”つなげましょう。例えば、ある問題を解くとき、「なぜこの公式を使うのか」「この解法を選んだ理由は何か」と自問自答してみるといいですよ。このように、「なぜ?」を繰り返すことで、知識が強固なネットワークとなりどんな応用問題にも対応できる力が身につきます。

ぜひ、この3項目をもとに、これからの学習を進めていってください!

さいごに

夏休みは残り少ないですが、今回お話しした「記憶の歪み」を意識して勉強すれば、学んだことがしっかり定着します。

そして、夏休みだけではなく、夏休み以降の学習にも必ず役立ちます。

一緒に頑張っていきましょう!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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