「全部正しいのに、うまくいかない」——合成の誤謬と受験勉強
合成の誤謬(ごびゅう)という言葉を聞いたことがありますか?
経済学などでよく用いられている言葉で、「個々にとっては正しい、合理的な選択でも、全体にとっては望ましくない結果を招く」という現象を指します。
経済なんか興味ないって人もいるかもしれませんが、受験勉強をしていく上でも実は常にこの現象に悩まされることになります。
各教科の先生は正しい。でも…
身近な例で言えば、皆さんの通っている高校では科目ごとに先生が分かれていますよね。英語だと〇山先生、数学だと〇田先生、国語だと〇田先生のように、それぞれに担当がいます。
その担当の先生たちは、それぞれ皆さんに英語が出来るようになってほしい、数学が…、国語が…、という想いで様々な指示を出したり、課題を出したりします。それぞれが正しく合理的だと信じる方法・内容で負荷をかけてきます。生徒たちは全員がそれをしっかり終わらせようと頑張るのですが、中にはそれら全てが中途半端になり、結果的に模試の得点は伸びないという事態に陥ることがあります。
本当に必要な勉強は、生徒によって違う
受験生の目標は入試に合格することです。そのために各教科の点数をあげることが必要となります。そして伸ばすべき部分は個々で違っており、全員が同じ課題を抱えている訳ではありません。英語の先生は、当然英語の点数が伸びるように尽力しますが、入試という視点で見たときには、生徒によってはアンバランスな負荷をかけられている可能性が出てきます。
例えば、模試の結果で
A君 英語80点、数学40点、国語60点、理科80点、社会40点 合計300点/500点
B君 英語40点、数学80点、国語60点、理科40点、社会80点 合計300点/500点
この2人の合計点は一緒ですが、科目間ではバラつきがあります。
入試において合計点は大切なので目標である400点を取ろうとしたときにやるべき内容は違っていて当然です。でも現実ではA君とB君に同じ課題が出されていたりします。
合成の誤謬、ここに現る
A君の課題は明らかに数学・社会です。でも英語の先生はこう言います。
「入試に英語は必要科目だ!満足せず90点目指せ!」
B君の課題は英語・理科です。英語の先生はこう言います。
「基本がまだあやふやだから、基礎をしっかり固めていこう!」
そして、A君にやらせても効果のある難易度の課題がB君にも出る…
どちらのアドバイスも、英語の点数を上げるためには正しいことです。でも、A君にとって今必要なのは数学や社会の底上げであって、英語での10点アップではないかもしれません。時間の限られた受験生にとってはいかに効率的に合計点を伸ばすかは最優先事項です。
誰も悪くない。それでも…
勘違いしてほしくないのは、登場人物全員に悪者はいないということです。
そこにこの現象の難しさがあります。
全員が真剣に各教科での成長を目指しています。それぞれに目をやると正しいことをやっているにも関わらず、全体でみると点数が伸びないどころか下がってしまうこともある。これが合成の誤謬です。
思い当たる人もいるかもしれません。
大切なことは、手当たり次第に何でもやるということではなく、目標達成のために優先順位をつけて行動していくことです。
自分の人生の責任は自分にしか取れません。
合格が全てではないですが、努力が報われてほしいと思います。
まずは、模試の結果、これまでの成績などを振り返って強みと弱みを正確に把握すること。そこから優先順位をつけるだけでも行動は具体的に変化していきます。
さいごに
何をすべきか、と考えることと同様かそれ以上に、何をしないかを考えることは時間の限られた受験生にとっては必要なことです。
冷静に自分のすべきことに集中していきましょう。

校舎長